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執筆者の写真松村 蘭(らんねえ)

【イベントレポート】『伊礼彼方の部屋 vol.13~成河×平間壮一×伊礼彼方~』――上裸でお粥を食べてたら血を吸われました――



『テラヤマキャバレー』が大千秋楽を迎えて3日後の2024年3月13日(水)昼、配信トークイベント『伊礼彼方の部屋 vol.13~成河×平間壮一×伊礼彼方~』​――上裸でお粥を食べてたら血を吸われました――が開催されました。生と死が交錯するキャバレーを舞台に、死を目前にした寺山修司と劇団員たちの姿を描くかつてない音楽劇『テラヤマキャバレー』に出演していた3人が再集合し、終始打ち上げモードの熱いトークを展開。スタジオに3分前に到着した成河さん、出演直前にヘアカットをしていた平間さんをゲストに迎え、伊礼さんがまさかの聞き役になるというレアな回となりました。


衝撃的な『テラヤマキャバレー』との出会い



2月9日(金)に日生劇場で開幕した『テラヤマキャバレー』は、あらゆる意味で挑戦的な作品でした。3人は台本の初稿(あるいはそれ以前のプロット)を読んだときの衝撃を口々に語ります。成河さんは一通り読んで思わず台本を叩きつけ、平間さんは1幕まで読んで一旦台本を閉じ、伊礼さんは「何これわからん」という印象を受けたと振り返ります。「存命している方を登場させて、フィクションとノンフィクションを織り交ぜて作る作品の扱いは非常に難しい」と、成河さんは本作の持つ難しさを冷静に分析します。それでも出演を決めた理由が各々にありました。成河さんはデヴィッド・ルヴォーさんの演出、平間さんは成河さん&伊礼さんとの共演、伊礼さんはデヴィッド・ルヴォーさんの演出×成河さんとの共演×自身の役にそれぞれ魅力を感じたと言います。



 伊礼さんの役は蚊でしたが、実は最初に聞いていたのは別の役。しかし台本が進むにつれてその役は登場しないことになってしまいます。そこで伊礼さんはもともとアンサンブルキャストの方が演じる設定だった「蚊」役の面白さに着目。「この役だったら元の役に通ずる面白さがあるかもしれない」と、蚊を演じるに至ったエピソードを語ります。一連の話を聞き「先輩たちがどうやって作品を選んだのかを聞いてすごく勉強になりました」とニッコリするのは、癒しオーラたっぷりな平間さんでした。


“考えるのか、感じるのか”問題



序盤から盛り上がりを見せる中、役者の先輩である成河さんと伊礼さんの話を終始穏やかに聞いていた平間さんが一言。「最近の演劇は答えを見せてくれるものが多いけれど、(『テラヤマキャバレー』は)考える舞台なところが素敵だなあって」。この言葉をきっかけに、成河さんの役者魂に火が点きます! “考えるのか、感じるのか”について何時間でも話せると言う成河さんはそもそも二分類にしていることが問題だとし、「どちらかになってしまうと面白いものは生まれない。考えるから感じるし、感じるから考える」と名言が飛び出します。続けて「これは作り手の問題。考えるか感じるかはお客様の自由だけれど、(作り手の)我々は延々と考えているというスタンスが大事」と熱弁しました。



これを受けて平間さんは劇中の寺山修司のセリフ「答えじゃなくて質問だ」を挙げ、「世の中で起きていることに“なんで?”と思うのはいいこと。それが考えることになり、質問になり、答えにもなる。だから“なんで?”は今の人間に絶対に必要なんじゃないかと思いました」と、作品を通じて得た気付きを語ります。本作で演出を務めたデヴィッド・ルヴォーさんもこの点にはこだわりを持っていたそう。成河さんはルヴォーさんとの作品づくりの中で「興味がないものに対して人は考えようと思わない。エンターテインメントとして入口を開くことによって興味を持ってもらって考えることが始まる。そういう段階があるのかもしれない」と感じたそうです。止まらない2人の演劇談義の横で「ちょうどいい質問を読もうと探していたけど、このテーマに沿った質問が見つからない〜」と必死に探すも苦笑する伊礼さんでした。


魅力的な共演者と刺激的な創作現場

 

本イベントでは毎回、事前に視聴者からたくさんの質問が寄せられます。今回もなかなか拾い切れない程の声が集まる中、厳選していくつかをご紹介。劇中では成河さん演じる白粥がシンバルを落とし、香取慎吾さん演じる寺山に怒られる場面が度々登場します。それに関連して「シンバルを落とすタイミングは全部考えられているんですか?」という質問が挙がりました。成河さんは「シンバルを落とすのは毎回必ず同じタイミングで、稽古場で計算し尽くしてやっている」と回答。とはいえシンバルは湾曲した形なのでどう転がるかはわかりません。そのため2割即興・8割決まり事でやっているそうで、この2割を全て処理している香取さんがとにかくすごいのだとか。「熟練の演劇の先輩に感じることを稽古序盤で感じました。慎吾さんは何をやっても拾ってくれる!」と興奮気味に語る成河さん。蚊の役として寺山にいろんな絡み方を試した伊礼さんも「慎吾さんが全部拾ってくれるのよ。何をやっても怒らないし、ちゃんと受け取ってくれるんだよね」、平間さんも「あれは心強かったですよね〜。何を言っても『うん、大丈夫』って返してくれる」と全幅の信頼を寄せている様子。この香取さんの“名キャッチャー”ぶりにはルヴォーさんもたいそう感動していたと言います。演技術の基礎の基礎であると同時に一番難しい「セリフを聞く」ということが、抜群にできる人が香取さんなのだと大絶賛の3人でした。

 

他の共演者も魅力的な面々が揃っていました。平間さんは稽古場で花王おさむさんから「若い人に寺山修司はわからないよなあ。きっと観に来てくれるお客さんも若いから、僕が頑張って稽古を引っ張っていかなきゃな」という何とも頼もしい言葉を聞いたそう。成河さんは横山賀三さんについて「現代の喋り方もできるしセリフをキメることもできるし、多彩な引き出しがある」、伊礼さんも「あの子は力あるねえ」と太鼓判。さらに「女性陣が素晴らしかった!」という声も。伊礼さんは福田えりさん演じる九条映子を「一見強そうだけれど今にも折れそうで、それがすごく素敵で切ない」、村川絵梨さん演じるアパートを「とても芯が強くて、声色や歩き方がセクシーですっごいトキメク」と、“Wえり”の魅力を語ります。今回が外部初出演だった宝塚歌劇団の凪七瑠海さんは、成河さんいわく「めちゃくちゃ考えている人」だったそうで、衣装合わせを機にルヴォーさんと互いの考えを照らし合わせることで役作りを深めていたエピソードを明かしました。


異例の強制エンディング



とにかく相手の立場に立って物事を考える人が多い現場だったと振り返るみなさん。伊礼さんは「プリンシパルとアンサンブルの境を全く感じなかった。各々がどうすれば作品のピースになれるかを考えていた」とし、もっとこういう現場に入りたいと思ったそうです。わからないことの楽しさとクリエイティブすることの楽しさが詰まった『テラヤマキャバレー』の魅力を語り合っていると、あっという間に2時間が経過。それでもなお「まだ半分くらいしか話せていない」とニヤリとする成河さんに、「この人に演劇論を語らせると止まらないからね。もう呼ばない!(笑)」と無理やり締めようとする伊礼さん。負けじとカメラに向かって演劇論を語り続ける成河さんをよそに「ゲストは成河くんと平間壮一くんでした〜!」と手を振る伊礼さんと、平間さんの笑顔でフェードアウトしていく異例の強制エンディングとなりました。

 

配信をご覧になったみなさまは、深夜の居酒屋で繰り広げられているようなディープな演劇論をお楽しみいただけたのではないでしょうか(実際は真っ昼間かつノンアルコールでしたが)。どこまでも深化し続けていく『伊礼彼方の部屋』を今後もどうぞお楽しみに!



文・集合写真:松村 蘭(らんねえ)

一部撮影:露詰 茉悠



 

執筆者:松村 蘭(らんねえ) 演劇ライター(取材・執筆・撮影・MC) 1989年埼玉生まれ/青山学院大学国際政治経済学部卒。仕事のお供はMacBookとCanon EOS 7D。いいお芝居とおいしいビールとワインがあるところに出没します。 オフィシャルサイト:https://potofu.me/ranneechan





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