【イベントレポート】『伊礼彼方の部屋 vol.18 〜木内健人×山田健登×伊礼彼方〜』――カフェで集い砦で戦う、あっちでけんと、こっちでけんと――
- 松村 蘭(らんねえ)
- 4月6日
- 読了時間: 6分

生配信トークイベント『伊礼彼方の部屋 vol.18〜木内健人×山田健登×伊礼彼方〜』――カフェで集い砦で戦う、あっちでけんと、こっちでけんと――が、2025年3月19日(水)に開催されました。今期の『レ・ミゼラブル』からゲストをお呼びするのはこれで三度目。アンジョルラス役の木内健人さんとマリウス役の山田健登さん、“Wけんと”をゲストにお招きしました。今期の『レ・ミゼラブル』からゲストをお呼びするのはこれで三度目。アンジョルラス役の木内健人さんとマリウス役の山田健登さん、“Wけんと”をゲストにお招きしました東京公演と大阪公演を経た三人が、劇中であった様々なエピソードを明かしてくれました。
どっちが“こっち”でどっちが“あっち”?
Wけんとがゲストのこの日、『伊礼彼方の部屋』では木内さんを“けんと”、山田さんを“けんちゃん”と呼ぶことに。『レ・ミゼラブル』カンパニーでは演出家をはじめとする海外スタッフ陣がWけんとの呼び方に頭を抱え、“アンジョルラスけんと”、“マリウスけんと”と、役名を付け加えて呼び分けていたそう。「ところでどっちが“こっち”でどっちが“あっち”なんですか?」と、木内さんがサブタイトルに対する素朴な疑問を投げかけます。伊礼さんが「二人で取り合っていいよ」と返すと、どっちでもいいんじゃないかという空気がスタジオに流れ始め・・・・・・最終的に伊礼さんの隣にいる山田さんが“こっち”、木内さんが“あっち”ということで落ち着きました。Wけんとに混乱しつつも、笑いの絶えないオープニングとなりました。

伊礼さんとはミュージカル『グランドホテル』(2016年)、『レ・ミゼラブル』(2021年、2024-2025年)で共演してきた木内さんと、今期の『レ・ミゼラブル』が初共演になる山田さん。初共演とはいえ、伊礼さんと山田さんにはテニミュ(ミュージカル『テニスの王子様』)という共通点があったため、懐かしのテニミュトークでひと盛り上がりする場面も。伊礼さんと同じく山田さんと今回初共演となる木内さんは、『レ・ミゼラブル』のエコール(歌稽古)で初めて山田さんを見て「かわいい子がおる〜!」と思ったそう。一方、山田さんは「緊張で顔を上げられなかったです。楽譜を持つ手もブルブル震えていました」と当時を振り返りました。

バランスがいいアンジョルラスと反抗的なマリウス
その後は『レ・ミゼラブル』で自身が演じている役の話へと展開していきました。
木内さんはABCカフェに学生たちが集うシーンで「一歩間違えるとアンジョルラスが独裁者になってしまうんじゃないか。仲間ではなく厳しい先生のように見えてしまいそうだなと思うときがある」そうで、アンジョルラスの居方やバランスをいつも考えていると言います。そんな木内アンジョルラスに対して「ついていきたくなるアンジョルラス」「芝居中にすごく目を見てくれて、セリフを超えた想いを伝えてくれるから自然に引き込まれる」と山田さん。伊礼さんも「健人のアンジョルラスは本当に素晴らしい」「仲間に語りかけるとき、厳しく制するとき、人間としての弱さが見えるときのバランスがいい」と絶賛。木内さんは恐縮しつつも「確かに3年前より確実にいろいろなものが見えて演じることができている」と、自身の成長を実感している様子でした。

山田さんは砦で戦っている最中、アンジョルラスから「マリウス、休め」と言われ銃を下ろすときに「生きている」と実感するのだとか。それまで恋と革命に挟まれフワフワと宙に浮いている感覚だったのが、エポニーヌの死を経て現実に引き戻される瞬間なのだと言います。そんな山田さんのマリウスを、木内さんは「トリプルキャストの中で一番反抗的なマリウス」と断言。例えばABCカフェのシーンで、マリウスが「君が今夜居合わせたら〜♪」とアンジョルラスに向かって歌うときの当たりが一番強いのだそう。続けて「Drink With Me」のシーンにも触れ、争うグランテールとモンパルナスたちを制したアンジョルラスが砦に戻る際の、アンジョルラスを睨みつける山田マリウスの目が「鋭く、嘘偽りのない目」なのだと力説。山田さんが「お芝居の経験が少ないからこそ、相手から熱量をもらって全力で生きている」と言うと、「お芝居は人からもらう熱量で変わって当然。上手い下手じゃなくて、それはセンスがあるということ」と伊礼さん。芝居のセンスがある山田さんに「いつかストレートプレイに挑戦してみてほしい」と、演劇の先輩として背中を押す伊礼さんなのでした。

三者三様、バルジャンから感じるもの
トークの後半は、「周りの登場人物からどんなことを感じているか」というテーマに。ここでは偶然にも、バルジャンとのエピソードがそれぞれから挙がりました。
まず木内さんは、砦の戦いで銃の弾がなくなったときに「俺が(弾を拾いに)行く。何も恐れはしない」というバルジャンのセリフを受け、アンジョルラスとしての死の覚悟の甘さを痛感させられたと言います。「まるで脳天を貫かれるような衝撃」を、2024年のプレビュー公演時に初めて感じたのだとか。この感覚を味わってからは「砦で潔く死に向かっていけるようになった」そうで、作品の奥深さを改めて感じる出来事だったようです。
伊礼さんも今期で新しい発見があったと言います。それは砦の戦いの途中、学生たちに捉えられたジャベールをバルジャンが逃がすシーンでのこと。そこでの吉原光夫さんが演じるバルジャンのジャベールへの態度が、今まで強い当たりがあったものから「説得」へ変化したと言います。その結果、伊礼ジャベールは怒りのまま自殺のシーンへ向かうのではなく、一度頭の中で考えを巡らせ、考えた末に死を選んでいるというのです。それぞれのバルジャンによって、ジャベールが橋(死)へ辿り着く経緯が違うのもまた面白いのだとか。伊礼さんは「イメージを超えた先で新しい発見があるのは、いつも誰かと関わったとき。役者として堪らない瞬間だよね」と演劇の醍醐味を語ります。
このエピソードを聞いた木内さんは「『レ・ミゼラブル』は“赦す”という言葉が最強だと思う」と一言。「赦す」には「受け入れる」という意味があります。ジャベールを逃がすときの吉原バルジャンの態度は、まさにこの「赦す」だったと伊礼さんも納得。一方、伊礼ジャベールはそんなバルジャンのことを「許せない」とし、バルジャンとジャベールの“赦す”vs“許す”という構図が浮かび上がってくる一コマとなりました。

山田さんは2021年の『レ・ミゼラブル』を客席で観たときに「明日からも頑張ろう」と思ったそう。このことを踏まえ、今回山田さん自身がマリウスとして出演して感じたことを話してくれました。物語の終盤、バルジャンがコゼットと最後の時を過ごしているときに、バルジャンがマリウスの目を見て頷く瞬間があるのだとか。その瞬間、山田さんはマリウスとして「明日からも生きよう」と感じるのだと言います。木内さんは「これまでバルジャンが守ってきたコゼットをマリウスに託したんだろうね。だからそれを感じたマリウスは“明日からはコゼットを守るために生きよう”と思うんだろうね」と興奮気味に語ります。物語の主軸を担うバルジャンを通し、それぞれの登場人物に相乗効果でいい影響が起きているのかもしれません。
最後は間もなく始まる博多座での公演に向けて意気込みを述べ、お開きとなりました。三人の板の上でのリアルなエピソードの数々を聞いて、改めて『レ・ミゼラブル』を観たいと思った方は少なくないのでは? 日々深みを増して進化していく『レ・ミゼラブル』を、どうぞお見逃しなく!

取材・文:松村 蘭(らんねえ)

執筆者:松村 蘭(らんねえ)
演劇ライター/取材・執筆・撮影・MC/1989年埼玉県生まれ/青山学院大学卒/京都芸術大学 アートライティングコース在籍中/二児の母 ミュージカル界隈を中心に活動しています。劇場かおいしいお酒があるところに出没しがち。
オフィシャルサイト:https://potofu.me/ranneechan
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