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執筆者の写真大本千乃 (おおもと ゆきの)

彩乃かなみ インタビュー 「困難の中でも、この先も希望を持ち続ける自分で」



宝塚歌劇団月組トップ娘役として活躍し、退団後もミュージカルやコンサートなどさまざまな舞台に出演している、彩乃かなみさん。

公演中止や延期が相次ぐ中、大好評のうちに東京・大阪公演を完走したミュージカル『マリー・アントワネット』、3月末に終えたばかりのコンサート『俺の presents Musical Showbox』についてや、コロナ禍における今の心境をたっぷりと語っていただきました。



●『マリー・アントワネット』と『俺のpresents Musical Showbox』、立て続けの公演完走、お疲れさまでした!

まずは 3月19日~21日に開催された、『Musical Showbox』についてお伺いします。

元宝塚歌劇団メンバーと元劇団四季メンバーで開催された今回の公演ですが、オファーが来たときに感じたことを教えていただけますか?


ありがとうございます! そうですね、当初はコロナ禍が落ち着く兆しが見えてきた時期でしたので、ようやくまたこのようなことができるんだという気持ちがありました。あとは、素晴らしいメンバーが集結しての新しい試みということで、単純にお話をいただけたことが嬉しかったです。一人でライブなどの活動はしていたのですが、舞台作品以外でいろいろな方と一緒に歌うということからは離れていたので。初共演の方も多く、お目にかかるのがとっても楽しみでした。

コロナという波が来てからの、エンタメの新しい一歩だと感じましたね。



●共演者の中には初対面の方も多かったそうですね。


はい、沢山お話ができて、すごく楽しかったですね。宝塚と劇団四季のお互いの違いを比べて意見交換をしたり、それぞれの良さを改めて感じたりして、とっても素敵な時間でした。その中で、四季さんの得意とする音の正確さや、みんなでピタッと揃える技術に感化されて、自分の歌い方や特性を再度見つめるきっかけともなりましたね。

一緒に過ごす中で、四季の皆さんの劇団の繋がりが温かくて癒されました。その中でのエピソードを一つお話すると、五東由衣さんと「私のお気に入り」(『サウンド・オブ・ミュージック』より)をデュエットしたんです。由衣さんは、こんなこと先輩に言うのは失礼なんですけど、少しおっちょこちょい?(笑)で可愛らしい部分がおありで…舞台に行く時には「行きますよ〜」と声をかけさせていただいていたんです。その時に毎回、出演者であり、同じく元劇団四季の柳瀬大輔さんがなぜか「すいません」って仰るんですよ(笑)。なんていうのかな…在籍期間が違っていても、お互いの信頼関係だったり、まるで家族のような雰囲気や繋がりを感じて、素敵だな〜と思いました。




より良い歌をお客様に届けられたという経験は、この公演で得たギフト

 

●歌がどれも素敵でした! ご自分で気をつけていたことはありますか?


私、舞台を観る時は普段から、「この人のこういうところがいいな」「客席からだとこのような見え方をするんだ」と研究してしまうんです。

今回も、初めてご一緒した方々の歌を聴いたときに、自分の苦手とするところを軽々と歌っていらっしゃるのを見て、自分の歌唱について足りないところを再認識する良いきっかけになりました。



●特に印象に残っている楽曲はありますか?


彩吹真央さんとのデュエット「その目に」(『ジキル&ハイド』より)は印象的です。ゆみこさん(彩吹さんの愛称)とはいろいろな場所でご一緒することが多いですね。私が宝塚歌劇団で花組に所属していて、まだ右も左もわからないような時期から知っていてくださる先輩のひとりですし、『マリー・アントワネット』の時は楽屋でご一緒する機会もあって、とても親しくさせてもらっています。ゆみこさんは私のいいところも悪いところも知ってくださっているのもあって心強くて、一緒に歌うと、自分の力以上の歌唱ができる感覚になるんです。声が重なった瞬間の心地よさ。引っ張っていただいていると感じることができて楽しかったです。

「星から降る金」(『モーツァルト!』より)は、以前歌う機会があったときに、「もっとこうしたかったな」と課題が残ったような経験があり、今回はどこかリベンジもかねて歌わせていただきました。もちろんいつまで経っても、「この歌は十分だ」という気持ちは持てないのですが、以前より少し理想に近づけた感覚がありました。そういうふうに、より良い歌をお客様に届けられたという経験は、この公演で得たギフトだと思っています。



●今回のショーでは、音楽監督を務めた塩田明弘さんからのご指導があったそうですね。


はい。「その目に」は、私が得意とするトワングや頭声を重視するのではなく、力強く歌うように、と指導していただきました。塩田先生とは『マリー・アントワネット』でもご一緒していて、私の歌唱の長所も短所もご存じなんです。そういう風に指導して頂けるのって、年々減っていて。新しい扉を開いていくことって、自分で果敢に挑戦していかないとできないですし、表現の幅も狭まってしまうんです。塩田先生が沢山ご指導下さったのはとてもありがたかったですし、自分の歌唱について「まだまだ私、追求できる!」と思わされました。




人との出会いや絆は、この仕事を続けていくことでつながっていく

 

●『Musical Showbox』を終えての感想を教えてください。


別チームだった2週目は客席の方から見させていただいたのですが、勉強しながらもとっても楽しんで鑑賞させていただきましたし、「こんな素敵なショーに出させていただいていたんだ!」と改めて喜びを感じました。

(少し考えて)あの、やっぱり今、お客様が来てくださるって、勇気がいることだと思うんですよね。行きたいと思っても、このような状況下なので、行かないほうがいいのだろうか…と考えるでしょうし、リスクを理解したうえで来てくださっていると思うんです。いろいろなものを抱えて、それでも来てくださったお客様には感謝しかないですし、このような機会をいただけた自分に誇りを持てました。

それからこのショーでは、お客様の観たい・聴きたいという思いだけではなく、「頑張って!」という気持ちを感じて、それはもう空間全体から応援していただいているような感覚で。そのお気持ちがすごくダイレクトに伝わってきて、ぐっとくるものがありました。

公演を終えて、改めてこの仕事は人に支えられて成り立っているんだということを感じましたね。お客様だけではなく、企画をしてくださっている方々やスタッフの方々がいて、一つの作品が完成されているんですよね。コンセプトがあって、そこにいろんなものがかかわって一つのものができるって、やっぱり素敵なんだなと感じました。

人との出会いや絆は、この仕事を続けていくことでつながっていくんだ、と前向きな気持ちになりました。こんな時だからこそ、誰かと一緒に作品を作ることの喜びをすごく感じましたね。



●それでは次に、Musical Showboxの前に公演が行われた『マリー・アントワネット』についてお伺いします。

今回は2019年以来の公演でしたね。再演にあたり、前回から変えたことや新しく挑戦したことがあれば教えてください。


音楽監督の甲斐正人先生から改善点としてご指導いただいたのは、(彩乃さん演じる)ランバル公爵夫人の歌う「神は愛してくださる」。この曲は、日本初演の時から2018年に新演出になるまでは、アニエス・デュシャンというマルグリッドに寄り添い導く修道女の方が歌う曲だったんですね。そこから今回改めて、この楽曲そのものが持つイメージや旋律、ランバルがこの楽曲を歌う意味ということを深く考える機会がありました。

先生は、ランバルがマリーにとっての心の支えとなる、マリア的存在でいてほしいとおっしゃっていて。この曲では、ランバルの清らかさや、殺伐とした中での一筋の光であることを強く見せてほしい、と。そうすることで、次に来る虐殺のシーンでマリーの悲劇性が増すんです。

そうした表現を突き詰めていく中で難しかったのは、マリア的に寄りすぎると、より人間味のあるシーンで違和感が出てしまうこと。先生が指導してくださったり自分でイメージしたりする清らかなランバル像も実現させたいけれど、突き詰めすぎると人間味がなくなってしまう。そこのバランスが難しかったですね。


●彩乃さん演じるランバル公爵夫人は、子役とかかわる機会が多い役です。子役とのかかわり方・接し方で気づいたことはありますか?


うーん、やっぱり子役も役者なので、こどもとして扱わないほうがいいんだなというか…。子役さん達とのかかわり方っていつも考えるんですけど、みんなしっかりしているんですよね。自我があって、個性があって。本当にちっちゃな子もいるんですけど。きっと、こどもとして扱ってほしいときと、大人として扱ってほしいときがあるんだろうなと思うんです。だから、基本は共演者として接しています。あ、面白いなと思ったのが、今回の『マリー・アントワネット』では、マリー・テレーズ役とルイ・シャルル役の子役さんがそれぞれ三人ずついたんですけど、ペアが決まっていて、シャッフルされることがなかったんです。そのペアが、個性がうまく合う組み合わせになっていて、すごく良いな〜と思いました。ペアがシャッフルされたらうまくいかないかと言われれば、そうではないと思うんですけど。同じ演目を演じていても、やっぱりそれぞれのペアで雰囲気が違っていて、そこもまたかわいいなと感じます。毎日、子役ちゃん達に癒されましたね(笑)。





出演者とお客様の、沢山の人数で思いが通じ合っていて、そのエネルギーで会話がなされているんです。

 

●『マリー・アントワネット』という大規模な作品がコロナ禍で無事完走したことは、観客のひとりとして感慨深かったです。


この公演は、スタッフ含め100人を超えるカンパニーで動いていました。ちょうど稽古中は、400人から600人、800人から1000人…と、感染者がどんどん増加している時期だったんです。お稽古に入る前の歌稽古の段階から、稽古場には「この状況下で、お稽古はできるのだろうか」「これからどうなっていくのだろう」というどこか落ち着かない空気はどうしてもありました。

だけど、私たちは今やれることを最大限にやろう、という気持ちをもって取り組みました。制作側の方が細やかに注意喚起してくださり、検温・消毒はもちろん、1週間に一度PCR検査をして…。結果が出るたびに「あー良かったー!」とほっとして。

そういう不安な気持ちがありながらも、「絶対やり遂げる!」という強い気持ち、私だけじゃない、みんなの思いをすごく感じていました。

上演中、私たちはマスクを外します。コロナ禍の前から上演している演出なので、どうしても人と人が向き合って怒鳴りあったり踊ったりする、密にならざるを得ない状況ができてしまうんですね。そんな中でも公演を乗り切れたというのは、やっぱり一人一人が徹底して対策を行っていたからだと思います。責任感や、この公演をやり遂げたいという強い思いがあったからこそ完走できたと感じています。

もちろん、どれだけ注意をしていても、やむなく中止・延期になる公演もあります。そんな中で完走できたのは本当に運が良く、感謝しています。

そんなお稽古期間を経て、初日にマリーが「ボンソワール!」の台詞で登場したときの感動ったら…! 忘れられないですね。登場と同時に湧き上がった、あの拍手。客席からの温かいパワーとともにいろんな思いが溢れてきて、泣きそうになりました。きっとその場にいた全員があの感動でぞわっとした感じを体験したと思うんです。

千穐楽でもその感覚はあって、言葉にするのは難しいんですけど…「よくぞここまでこれた!」という、天にも祈るような気持ちがありました。出演者とお客様の、沢山の人数で思いが通じ合っていて、そのエネルギーで会話がなされているんですよね。舞台の良さ、生身の良さってここだよな、本当に人の力ってすごいな、と感じました。

楽屋でも皆さんその話をしていて、みんながそう思っているんだという確認ができて、通じ合っていると感じました。



●日々の過ごし方で変化したことはありますか?


家で動画を見ながらできるコアレッスンを始めました。あの…全然毎日やっているわけじゃないんですけど(笑)。

体を動かさないとマインドも落ちてきてしまうので、ステイホームになって改めて体を動かす良さを感じました。稽古場や公演に行くと、稽古中・公演中も、準備時間にも体を動かす時間があるんですけど、そのような機会がないと運動する時間も減ってしまいがちなので始めました。

あとは、会えないからこそ人とのつながりを感じました。久しく連絡を取っていなかった方がご連絡をくださって、大切に思ってくれているんだなとか、普段頻繁には会わない方が生活に必要なものを届けてくださって、ありがたいなとか、こういう時だからこその温かいギフトがたくさんありましたね。

自粛期間中は家にいるしかなくて、料理をしたり、運動をしたり、そういうことしかできなかったんです。

そんななかで心配してくださったのが、相手役だった瀬奈じゅんさん。宝塚に入りたての頃お母さんからもらっていたような食べ物の詰め合わせを贈ってくださって。贈り物用のお菓子とかじゃなくて、美味しいお出汁とか…本当にお母さんみたいだなと思って。

もちろん、想ってるよ、と言ってもらえるのも嬉しいんですけど、つながりが目に見える形で届くって、とても嬉しかったです。



みんなが平等なら、絶対にその先に道があるはず。

 

●コロナ禍を過ごしていく中で、心境の変化はありましたか?


コロナ禍で、社会全体の気持ちが落ち込んでいる時期があったじゃないですか。その中でも私は、このことは絶対に良いことに変わる、障害は変化のチャンスだと思っています。お亡くなりになられた方や苦しい思いをしている方もいらっしゃるので、一概には良い機会だとは言えないですけれど。

渦中で不安な思いも沢山ありましたが、絶対に希望を捨てていなかったというか。ここから何か新たに生み出されるものへの期待もあったんです。その明るい気持ちを忘れずにいたいです。

あとは、この困難は個人的なものでも一箇所で起きていることでもなく、世界中で起きているものじゃないですか。みんなが抱えている問題だからこそ、この状況を悲観してとらえるのか、新たなステップとして前向きにとらえるのか、自分の在り方次第でその先が変わってくると思うんです。みんなが平等なら、絶対にその先に道があるはず。だからこそ、自分はどうありたいのかを問いかけています。この先も、希望を持ち続ける自分でありたいなと思います。



●力強い言葉をありがとうございます!

それでは最後に、garnet読者や舞台業界を目指す若者に向けてメッセージをいただけますか?


そうですね…。この情勢の、以前よりも過酷になっている状況の中で、それでも若い方々が舞台を目指したいという気持ちを持つには、強い信念が必要だと思うんです。私が宝塚を目指したときは、全然勝算はないけれど、どうしようもなく「やってみたい!」という強い気持ちがあったんです。できるかできないか、ではなく、理由のつかない、躍動する鼓動のようなものがあって。それって皆さんも感じることがあると思うので、絶対に見逃さないでほしいですね。

私が宝塚を志したのは高校1年生の頃。進路に迷っている時期に、テレビを見ていたら偶然宝塚の『珈琲カルナバル』と『夢・フラグランス』(1992年 月組公演。涼風真世、麻乃佳世、天海祐希、久世星佳(※敬称略)などが出演)をやっていて、「なんだこれは~!?」と感動して!

それですぐ、104(番号案内サービス)に電話して、「タカラヅカの番号を教えてください!」って言ったんです。宝塚って地名なので、「沢山あるんですけど…」と言われてしまって。でも当時はわからなかったので、宝塚歌劇団につながるだろうと思って、「じゃあ一番上のを」って(笑)。あ、どうかこれ読んでも真似しないでくださいね(笑)。その番号は歌劇団の番号じゃなかったんですけど、電話先の方がすごく親切で、「宝塚音楽学校を受験するなら」と、学校の番号を教えてくださったんです!そんな偶然があって、無事宝塚音楽学校に入学し、歌劇団に入れたんですよね。

遠回りに見えて、何度も失敗したとしても、絶対に自分の鼓動や自分の火を頼りに進んだら間違いはない、と思っているんです。この先どうしようかな、やめようかな、と思うときでも、自分はどうしたいのかをご自身に聞いて、振り返ってみてほしいと思います。皆さんが自分の心のままに道を進んでいけることを応援しています!




《Profile》

彩乃 かなみ(あやの かなみ)


女優・歌手。群馬県前橋市出身。

宝塚歌劇団では花組・宙組を経て月組へ組替え。トップスタ ー瀬奈じゅんの相手役として月組トップ娘役を務めた。退団後も高い歌唱力を生かし、『アニー』『Little Women -若草物語-』『マリー・アントワネット』ほか数々のミュージカルに重要な役で出演する傍らコンサートも精力的に行うなど、ますます活動の幅を広げている。






 

編集後記


終始丁寧に言葉を選びながらお話してくださった彩乃かなみさん。常に前を向き続ける、強い気持ちを秘めているからこその優しさを感じました。私事ながら媒体での初インタビューとなる今回、緊張しっぱなしでしたが、彩乃さんの優しい雰囲気に背中を押していただき、楽しみながらインタビューすることができました。舞台業界を志す若者の1人として、第一線で長年活躍されてきた彩乃さんのお言葉を胸に刻み、自分の気持ちに正直に色々なことにチャレンジしていきたいです。


執筆者:大本 千乃 (おおもと・ゆきの)

2001年生まれの現役大学生。舞台監督・音響・照明等、スタッフの技術を勉強中。名前の読み方が難しいため、漢字そのまま、せんちゃんと呼ばれている。趣味はミュージカル鑑賞・オペラ鑑賞。最近は2.5次元舞台にも興味がある。座右の銘は勇往邁進。

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