奈良県の山深い村で生まれ、幼少期から独学でマジックの腕を磨き、18歳で世界チャンピオンに。いまや地球の至るところからお声がかかる超一流のイリュージョニストとなったHARAさん。彼がコロナ渦で生み出した距離を超えるマジックショー「CONNECT」ってなに?さらに、彼が子供の頃からマジックだけを追い続けてこられた原動力や、次なる壮大な野望についてもお聞きました。
もう人前でマジックができないんじゃないか。苦悩の中で見つけたマジックの力
●2月19日から開演する新感覚マジック「CONNECT」が話題ですが、何が起こるのですか。
渋谷の小さな会場で行うショーを別の会場にライブ配信して、離れた会場にいるお客さんの手の平で奇跡を起こすという全く新しい試みです。4Kカメラ4台で360度から撮影するので、YouTubeなどで配信するショーとも違うものになります。しかもライブですし、映ってはいけないものまで映らないかという意味でもドキドキです(笑)。
●こういった遠隔マジックに挑戦されるのは初めてなんですか?
離れた会場にいるお客さんに奇跡を起こすということをこれだけの規模でやるのは、世界でも初の試み。海外のマジシャン仲間からも「どんな感じなの?」ってすごく連絡がきます。もし成功したら新しいカタチのエンターテインメントが提供できるようになるので。
●コロナ渦に楽しめる新しいショーの形ですね!
昨年のジャパンツアー中に緊急事態宣言が発令されて、スケジュールが真っ白になってしまって。家にこもりながら「もうお客さんに生でマジックを楽しんでもらえる日は戻ってこないんじゃないか…マジック辞めようかなぁ」とまで考えました。そんな時、アフリカにいる子どもたちにzoomでマジックを見せてあげてほしいというお話をいただいて。最初はできるのかと不安でしたがすごく喜んでくれて、マジックの新しい可能性に気づいた。それからというもの毎日家から画面越しにマジックをやっていくようになって、今回の「CONNECT」の構想までたどり着きました。この状況だからこその大発見でしたね。
●リモートでマジックを体感できるなんて想像できないです。これは体験しておいたほうがいいですね。
ストレス発散のつもりで来てほしいです。いまみなさん大変な状況の中でストレスが溜まっていると思うけれど、それが吹っ飛ぶくらい不思議なことが起こるので。気軽に楽しんでいただけるよう40分間のショーになっているので、ショッピングやデートのついでにぜひお待ちしています!
●ミュージカル「イリュージョニスト」もコンサート形式で短期間での上演となってしまいましたが、素晴らしい舞台でした。
あれも貴重な体験でしたね。映画の作中でやっているイリュージョンを実際にやるというのが課題だったんですが、映画の中のマジックは全部CGで(笑)。この世に存在しないマジックを具現化させるということで、どうしたら再現できるかすごく悩みました。結局イリュージョンのシーンは全部カットになってしまったんですが、イリュージョニストという存在が一瞬の夢を見せるために裏でどんな準備をしているのか、その生き様を皆さんに知ってもらういいきっかけとなった作品だと思います。いつかフルバージョンで上演される日が来たら良いなと思います。
インスピレーションの源は、サウナ!?
●「CONNECT」もそうですが、常に新しいマジックを考えているんですか?
なんだか最先端のマジックをやり続けるキャラクターになっていて、テレビなどに出る時も「初出しの新ネタでお願いします」とお題をいただくので、毎回締め切りに追われて震えながらやってます(笑)。でも追い込まれないと新しいものって生まれないので。制約がある中でどんな面白いことができるのか、ワクワクしながら考えています。
●HARAさんのマジックはどんなところから生まれるんですか?
やっぱり最近だと、“サウナ”ですね。
●サウナ!?
はい。最近は行けないので家に水風呂を作って、今日も朝5時から整ってきました(笑)。子供の頃からマジシャン一筋なので、夢の中でもマジックショーやったりしているんですよ。失敗する夢にうなされたり。でもサウナで整うと頭が真っ白なキャンバスになって、新しいアイデアが振ってくる。サウナで生まれたマジック、結構ありますよ。
●めっちゃ面白いです。他のマジシャンのパフォーマンスを見たりはしないんですか?
影響されちゃったりするので見ない。美術館や自然の中でボーッとしたり、マジック以外のことから着想を得ることが多いです。綺麗な夕焼けを見たら、あれをどうやってマジックで表現しようかなと考えたり、自分が感動したものをマジックで伝えたいといつも思っています。
●「America’s Got Talent」で披露されていた「IBUKI」もそうですか?
あれは僕が生まれ育った奈良県十津川村の風景がアイデアの元。十津川村は最寄りのコンビニまで車で1時間くらいかかるほどの山深い村で、保育園も遠かったので小さい時は友達がいなかったんです。庭に大きな桜の木があって、そこに飛んでくるうぐいすと友達になれないかなと思ったり、春に桜がふわって咲く光景とか、そういった日本の四季の美しさをマジックで海外の人に届けたいと思ってあの作品が生まれた。2分40秒しかないんですが、その2分40秒を見たいと世界30カ国から呼んでもらえて、それがすごくうれしかったですね。
●HARAさんのショーはマジックというかアート的ですよね。
お客さんに夢を見てほしいというか。不思議なことを起こして仕掛けがわからないでしょ?っていうスタンスじゃなくて、夢を見ているようなショーが僕の目指すもの。だから僕のショーでは、最初は腕組してネタ見破ってやるぞって顔をしているお客さんも、最後には全員子供の顔に戻るんです。一瞬の癒やしのようなものになっていたらいいなと思います。
次に狙うステージは宇宙。夢は声に出して言えば叶っていく。
●一つのことをやり続けることってとても難しいと思うのですが、どうしてHARAさんはマジックだけを真っ直ぐに追い続けてこられたんだと思いますか?
やっぱり好きだからですかね。それに自分のパフォーマンスを見たお客さんがびっくりして喜んで、スタンディングオベーションしてくれるのを一度体験してしまうと、それ以上にゾクゾクする瞬間ってもうないんです。その瞬間のためにいくらでも時間を割きたいと思う。自分が一番ワクワクすることがマジックだから、いまも仕事をしている感覚がないですね。
●前に出ることで得た成功体験がモチベーションになっていたんですね。
日本のパフォーマーの方って世界レベルの技を持っているのに、恥ずかしがって自分を外に出さない気がします。僕は小学3年生で両親に「自分はマジシャンになるから、これからマジック以外のことはしない」って宣言して退路を断って、地元のお祭りやイベントでマジックを披露する時は「自分はラスベガスに行って世界チャンピオンになります」みたいなことを言って締めてた。「また原さんとこの子ホラ吹いてるわ」と言う大人もいましたけど(笑)、そうやって色んなところで夢を宣言していると必ず引っ張ってくれる人が出てくる。一人でできることの力って本当に少ないけれど、10人に言えばその10人がどこかのタイミングで可能性を広げてくれると思います。
●口に出す勇気ですね。ちなみに次なる夢はあるんですか?
宇宙空間でマジックをやりたい。世界初の。宇宙にいる自分から地球にいる子どもたちに向けてマジックができたら夢がありますよね。さらに宇宙に行ったら後には、宇宙から見た地球の美しさを表現したパフォーマンスを作って世界ツアーをやりたい。カメラマンも含めて3人くらいで行くので、費用はだいたい1億円くらい。出してくれそうな人がいたら紹介してください(笑)。
●人類初の宇宙イリュージョン!そんなこと可能なんですか?
宇宙でやるマジックは、無重力フライトで実験済みなので、あとはどれだけ早く行って実現できるかですね。頭でイメージできることは全部現実にできるんです。僕自身それを体感しているので。
●ちなみにマジック以外でなにか叶えたいことってあるんですか?
サウナ付きの家を建てたいということだけですね。ロウリュができるサウナとBBQできる小屋を作りたい。毎日夢の中で業者さんと「いやこの木がいいですね」とか話し合ってます。香りがいいっすねぇ〜とか言って(笑)。
●その家に住んだら新しいマジックがどんどん生まれますね。今後も世界を股にかけるイリュージョニストとして活躍していきたいですか?
意外と地球ってそんなに大きくないと思うんです。アフリカとかも20時間くらいでいけるし、zoomがあれば世界中と繋がることができる。マジックやイリュージョンには言語も必要ないので、地球全体、宇宙までも自分のステージになったらいいなと思います。あと去年娘が生まれたので、彼女が誇れるような父親になりたいというのも新しいモチベーション。「宇宙でマジックをやるお父さんカッコいい!」と思ってもらいたいですね。
《 Profile 》
HARA
1990年奈良県十津川村出身。幼少の頃より独学でマジックを修得し、2009年ラスベガスにて開催された世界大会にて日本人初のグランプリを受賞。その後、米国の人気オーディション番組Americas Got Talent にて最先端テクノロジーとマジックの融合作品"IBUKI"を披露しスタンディングオベーションを受ける。近年では日本で世界初演となったミュージカル『イリュージョニスト』にてイリュージョン監修を担当。今、最も世界から注目を浴びるイリュージョニストのひとりである。
HARA 体験型マジック
『CONNECT -コネクト-』
渋谷キャスト スペースでマジックを行い、ヒカリエ ホールAに配信するという新しい試み。
本番:
2月19日(金)19時時開演
2月20日(土)14時開演/17時開演
2月21日(日)14時開演/17時開演
2月22日(月)19時開演(この公演をリモートライブ配信します)
アーカイブ上映:
3月8日(月)19時開演
3月9日(火)19時開演
3月10日(水)19時開演
3月11日(木)19時開演
会場・金額:渋谷キャスト スペース 3000円
ライブ配信上映会場:ヒカリエホールA 1000円
リモートライブ配信500円
アーカイブ上映会場@渋谷キャスト スペース 500円
上演時間:40分~45分予定
チケット:「カンフェティ」https://www.confetti-web.com/HARA
主催:文化庁、東急株式会社 制作:アミューズ 技術協力:富士通株式会社
執筆者 : 井上麻子 /Asako Inoue
食べること、つくることに関する取材が多め。舞台芸術、スポーツ観戦、音楽イベント、卵など、“生”で楽しめるものはたいてい好き。SAKE DIPLOMAの資格を持ち、「日本酒のおねえさん」としてときどきポップアップSAKEバーも開催している。
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