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執筆者の写真松村 蘭(らんねえ)

一色伸幸&一色洋平親子に聞いた! 宮城発地域ドラマ『ペペロンチーノ』ができるまで



脚本家の父と俳優の息子。この一風変わった親子が、東日本大震災から10年を機に制作された宮城発地域ドラマ『ペペロンチーノ』(NHK BSP,BS4K /2021年3月6日(土)夜10時30分放送)でタッグを組みます。

今回『ペペロンチーノ』の脚本を手掛けた一色伸幸さんと、出演キャストの一人である一色洋平さんに、本作に込めたそれぞれの想いを伺いました。




作家の息子に生まれ、役者という仕事を選んだならば


●東日本大震災をテーマとした本作『ペペロンチーノ』への出演のお話があったとき、どんなお気持ちでしたか?


震災や、あの日あの場所への思いは人それぞれ違うと思うのですが、私の場合はちょっと特殊かもしれません。震災が起きたあと、脚本家である父が被災地を舞台にした作品をいくつか書きました。そのお陰といいますか、宮城に家族と呼べるような人や大好きな友達がたくさんできたんです。なので『ペペロンチーノ』のお話をいただいたときは、この企画の仲間に入れていただけて光栄だなという想いが強かったですね。


●お父様である一色伸幸さんが書いた脚本の作品に携わるというのは、実際のところどんな感じですか?


作家の息子に生まれ、かつ役者という仕事を選んだからには、「父の作品に関わりたい」という野望みたいなものはありました。父は照れくさいと言うんですけど(笑)。一色先生の作品をある種一番に体現できるような役者になりたいし、信頼できるタッグになれたらいいなと思います。そのためには私自身が役者として頑張らないといけないな、という気持ちです。



宮城でのご縁が背中を押してくれた役作り


●一色さんが演じられた高橋友作という役は、主人公・小野寺潔が営むレストランに食材を提供する漁師という設定です。どんな役だと捉えて演じられましたか?


友作って、気質的には漁師に向いていないと思うんです。肉体仕事より頭を使う事務仕事が得意で、いわゆるシティボーイ。友作は自分が向いているかどうか関係なく、「海が好きだ」という想いから漁師になります。彼なりに屈折したところを持っていて、とにかくステレオタイプにしたくないと思って演じていた節がありました。


●宮城の漁師ということは、方言を話すこともあったと思います。役作りでの苦労はありましたか?


ありがたいことに、自分の中で役のモデルがいたんです。宮城でのご縁や宮城で過ごしてきた時間が、役作りや一つひとつのセリフでフッと背中を押してくれるところがたくさんありました。方言にも慣れ親しんではいましたが、苦労はしましたね。一人でスタジオを借りてずっと方言をしゃべる時間を作ったり、考え事を方言でしてみたり、いろいろ試しました。



地域ドラマならではのあたたかな撮影現場


●撮影期間はどれくらいだったんですか?


3週間くらいで、全部宮城で撮りました。普通、自分のシーンが2、3日ないときは東京に帰るんです。でも私はできるだけ地域の空気を吸って、歩いて、感じたものをそのまま作品に乗せてみたいと思って、3週間ずっと宮城にいたんです。すごく有意義な時間でした。休みのときは外を歩いて、他の方が撮影しているときはそのロケ地にお邪魔して。私はまだ映像のお芝居の経験が少ないので、その勉強も含めて通っていました。草彅さんには「帰んないの!?」ってずっと言われていましたね(笑)。


●現場の雰囲気はいかがでしたか?


あったかかったですねえ。漁師さんたちが我々の食事のために漁に出てくれたこともありました。あわびを海から取ってきて、海水でちょっと洗って「はい、食え」みたいな(笑)。特に忘れられないのが「東京の人にはあんときほんとによくしてもらったから、東京の人が来たら精一杯もてなすって決めてんだ」という言葉。自分は震災後にボランティアに行けたわけではないのですが、東京の人が当時一生懸命被災地に通って宮城の方と繋がって、そのご縁の恩恵を今自分は受けているんだな、と。”宮城発地域ドラマ”というだけあって、地域と密着して作れた実感があります。


●これから『ペペロンチーノ』を見る方に向けて、一言メッセージをお願いします。


東日本大震災を経験された方みなさんに観ていただきたいです。作品を通して「これがメッセージです!」というよりは、「この10年どうでしたか?」と、見た方にとっての10年にそっと寄り添えるようなドラマでありたいと思います。


時と共に、息子から一役者へ


●本作では一色さんの息子であり俳優の一色洋平さんが出演されます。このキャスティングは偶然だったのでしょうか?


いえ、これは僕から言い出したことです。漁師と書くと昔ながらの漁師っぽい人が普通キャスティングされるのですが、今回は真逆のイメージにしたかった。今の漁師さんって本当にいろんな人がいるんですよ。一般的な漁師とはタイプの異なるうちの次男というアイディアが、自然と出てきました。


●親子で同じ作品に携わることはこれまでにも何度かありましたが、父としてはどういうお気持ちですか?


彼が舞台をやり始めたのが10年くらい前になります。彼の作品を観に行くと照れくささがあって、意識しちゃうところがありました。当時は一緒に仕事をしようとは思わなかったですね。でも段々と、自分の息子というより一役者として冷静に客観的に見ることができるようになってきたんです。



●10年の時を経て、俳優としての息子さんを見ていく中で気持ちの変化が起きてきたんですね。


そうですね。今回の『ペペロンチーノ』で彼の名前が浮かんだのは、2019年の舞台『刀剣乱舞 -維伝 朧の志士たち-』の岡田以蔵役がとてもよかったというのもあります。親としてではなく、純粋に観客として楽しんでいたんですよ。そういう距離感を保てるならば、たくさんの俳優さんの中の一人して一緒に仕事をしたいと思えました。


宮城の人たちのリアルな言葉を伝えたい


●『ペペロンチーノ』は東日本大震災から10年を機に制作されたドラマですが、一色さん自身は東北とどんな繋がりがあるのでしょうか?


僕はライターであると同時にダイバーでもあって、震災後にダイバー仲間と宮城の海に潜りに行ったことがあったんです。それを機に現地の人たちとどんどん親しくなり、今では友達や家族と呼べるような大好きな人がたくさんできました。それから徐々に、震災をテーマにした作品を書くようになったんです。


●東日本大震災をテーマにするのは、とても繊細で難しいことなのではないかと思います。『ペペロンチーノ』を書くにあたってどんなことを大切にされましたか?


被災地にいる人たちと友達付き合いや親戚付き合いをする中で、何かの折に震災に対する彼らの本音が出てくることがありました。例えば、メディアが東北を取り上げてくれるのは嬉しいけれど、いつも「被災者の再生」として取り上げられることに密かに傷ついている人もいる。10年間彼らが聞かせてくれた本音が、テレビを見る人に伝わったら嬉しいなと言う気持ちがありました。言葉が伝わるようにするために、童話のようなほわんとした柔らかさのあるパッケージにしていこうと意識しましたね。


●『ペペロンチーノ』というタイトルも柔らかさがあって、震災のイメージとは対照的ですね。


ちょっと絵本ぽくってかわいいでしょう。震災のイメージとはあえて違うものを持ってきたかったんです。絵本や童話という、ちょっと違和感があるものを持ってきて、その中に被災者の本音を混ぜていくとどうなるかな、と。



マスクという最高の小道具


●試写映像を拝見したのですが、ドラマの中で登場人物がマスクをしていたり、レストランにアルコール消毒液が設置されていたりと、コロナ禍の日本のリアルも描かれていました。それは現代を描くには必須なこととして取り入れたのでしょうか?


そうですね、必須だと思います。今回、僕自身やってみたかった好きな場面があります。主人公の潔が「みんなで乾杯しよう」と言ってお酒を飲み始めるとき、全員マスクを外すのですが、その途端みんなが本音を話し始めるんです。マスクのときは綺麗事を言っていたのに、マスクを外すと本音が出てくる、という演出を個人的にやりたくて。



●なるほど! 脚本家の方はマスクを小道具として捉えるんですね。現代を反映してマスクを使っている作品はまだまだ少ないと感じます。


舞台でも映像でも、あまり使われていないのはもったいない気がしますね。マスクって最高に面白い小道具なんですよ。昔のドラマや映画だとタバコを小道具としてよく使っているのですが、それと似ています。心情を表すのに非常に便利なんです。例えば僕と誰か女性が親しくなっていったときに、どの段階からマスクを外すのかっていうだけでちょっと面白いじゃないですか(笑)。あと、“隠す”ということも効果が大きい。マスクで隠れた口がどうなっているのか、我々は無意識に想像しているんです。見る人に想像させるものって強いんですよね。マスクは小道具として本当に面白いんじゃないかなあ。


●本作のテーマは東日本大震災ですが、現代のコロナ禍も人生で起きる予測不可能な困難という意味では近しいものだと思います。この10年、本当にいろんなことが起こりました。


被災者がこの10年大変だったのは本当なんです。でも、僕の10年はそんなに楽だったかというとそうでもない。この10年を生きてきた人は、被災者も視聴者も含めみんなしんどかったよね、ということを描きたかったんです。その10年を踏み台にして前に向かう人もいれば、ずっと過去を抱きしめている人もいて、それはどれも否定できない。みんなで10年を振り返りながら、生き方について考えるきっかけになれば嬉しいですね。



執筆者:松村 蘭(らんねえ)

演劇ライター。1989年生まれ。埼玉県出身。青山学院大学国際政治経済学部卒。出産を機にIT企業を退職し、ライターへ転向。仕事のお供はMacBook AirとCanon EOS 7D。いいお芝居とおいしいビールとワインがあるところに出没します。

Twitter:@ranneechan

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